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『言ってはいけない 残酷すぎる真実(橘 玲)』

人は幸福になるために生きているけれど、幸福になるようにデザインされているわけではない。私達を「デザイン」しているのは誰か?(略)「現代の進化論」はこう主張した。
身体だけでなく、ひとのこころも進化によってデザインされた。
(まえがき)

進化論、遺伝学は、「人種や男女の差はない」、「依存症、精神病、犯罪は遺伝しない」などの"良識的な"言説を否定する。しかし、世の中を良くするために本当に必要なのは心地よいけれど根拠がない言説ではなく、不愉快でも根拠のある言説である。
本書は①努力は遺伝に勝てないのか ②あまりに残酷な「美貌格差」 ③子育てや教育は子供の成長に関係ない の3章構成。一章、二章にも「アメリカの分断は人種ではなく知能の格差で生じている」とか「人の本性は一夫多妻でも一夫一妻でもなく、乱婚である」など興味深い内容はあるが、一応育児ブログでもあるのでここでは第三章の感想を。


子供が親に似ているのは遺伝子を共有しているからだ。子供の個性や能力は子育て(家庭環境)ではなく、子供の遺伝子と非共有環境の相互作用によってつくられていく。そしてこの過程に、親はほとんど影響を与えることができない。
(わたしはどのように「わたし」になるのか)

「わたし」に影響を与える項目として、遺伝、共有環境(親・家庭の影響)、非共有環境(友人など家庭外の影響)の3つがあるとすれば、同じ親・違う親のもとで育った一卵性双生児と二卵性双生児の統計調査から、それらの影響度合いを推測できる。
本書では音楽や数学、スポーツの才能は85%以上の遺伝率であり、言語性知能を除いて論理的推論能力や空間性知能などの認知能力も70%の遺伝率、外向性、新規性追求、損害回避、協調などの性格への影響は40~50%の遺伝率という結果が紹介されている。
つまり、才能・認知能力のほぼ全て、性格の約半分は遺伝によって決まっているということで、スポーツ選手の子供が運動神経が良かったり、大学教授の子供が勉強が良くできたりすることを考えれば、ある程度納得できる話かもしれない。残りが環境からの影響になるのだが、重要な点は、引用したとおり共有環境の影響はゼロで、すべて非共有環境の影響であること。
(※ただし、言語性知能は共有環境の影響が58%ある。)


子供にとって死活的に重要なのは、親との会話ではなく(自分の面倒を見てくれるはずの)年上の子どもたちとのコミュニケーションだ。
(略)子供が親に反抗するのは、そうしなければ仲間はずれにされ、「死んで」しまうからなのだ。(略)親が影響力を行使できる分野は、友達関係の中で興味の対象外になっているものだけだ。
(親子の語られざる真実)

農耕が始まってたかだか1万~2万年程度であるから、私達は200万年以上続いた旧石器時代の環境に最適化されていると考えられる。この時代は多産であるとともに狩猟・採集などで大人の労働負荷が大きいため、親が子育てに割ける時間は限られていただろう。必然的に子供の世話は兄姉や年上のいとこたちが担うようになる。
このような環境では、思春期を迎えるまでは「友達の世界」が子供にとってのすべてと言える。友達の世界の同調圧力に比べれば親の影響など皆無に等しいのも頷ける。


それでは、親が子どもに対してしてやれることはなんだろう。
(略)「親は無力だ」というのは間違いだ。なぜなら、親が与える環境(友だち関係)が子供の人生に決定的な影響を及ぼすのだから。
(「遺伝子と環境」が引き起こす残酷な真実)

これまでに引用した内容からすると、親の役割=コントロール可能な範囲は次の2点。
①言語性知能を高める
②才能の芽を摘まないような環境を与える
この本で言う言語性知能が言語IQ(言語理解+作動記憶)のことだとすると、論理的思考能力や記憶力は遺伝の影響が大きいと考えられるため、子育てで関与できるのは「知識量」が主になると考えられる。つまり、図鑑や博物館、美術館、旅行など、さまざまな知識に曝露させる機会を意識して増やすことが重要だろう。
次に、好ましい同調圧力がある環境を与えることも重要になる。例えば、勉強することに対してガリ勉と言われない環境(たとえば進学校)や変わっている人間が受け入れられる環境(チームスポーツよりは個人種目)などを選ぶと良いだろう。友人からの同調圧力という強力な作用を、いかに利用できるかが「子育て」ということになる。



これらは一般的で心地よい考えではなく、不快だがエビデンスに基づいた確かな方針だ。

私は、不愉快なものにこそ語るべき価値があると考えている。綺麗事を言う人は、いくらでもいるのだから。
(おわりに)